特集・「大越孝太郎」其の壱
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なんで特集かって、新連載が嬉しくて。
「月喰ウ蟲」は大越氏が一番最初に出した単行本。最初に出したのは青林堂、後に改訂版が青林工藝舎より発売。現在は改訂版のみ入手可能。
大越作品の入門編と紹介される事が多かった記憶があるけど、初期作品なので絵が違うから現在では大越ファン向けという要素が強い気がする1冊。
「月喰ウ蟲」
「月光浴をすると肌が白くなるって本当かしら?」
そんな台詞が印象に残る表題作。
幻想都市の横浜を舞台にした小説家:ベニスケと愛人:チル、そしてチルの弟:ターキーが登場する幻想絵巻。ベニスケの小説と重なる現実、幻想的な横浜の風景、ツキノコなる生き物、そして月の事…ストーリーと言ったものは無いものの、言葉の選び方や圧倒的な描き込みで幻想世界への憧れを抱かせる話。
「妖虫」(青林堂版のみ収録)
江戸川乱歩「妖虫」を元に描いたイラスト。同時に二次元の少女への恋を描いた「押し絵と旅したい男」なる短文も収録。「大越サァン、江戸川乱歩、スキでしょ?」っていうのを改めて思う。私も好きですけど。
余談ですが、大越氏はインタビューによると乱歩より横溝の方が好きらしいです。
「変質狂の桃源郷」
イラスト。可愛い女の子、プラモデル、標本、天体、制服へのフェティシズムを細かく描き込んでいます。
初期の絵はかなり書き込んでいますね。
「肉と限界」
恋人を殺してしまった男の話。死体を埋める穴を掘っていたら、中に不発弾、うっかり踏んで、爆発するから動けず…という悲劇。この頃の線は少し太めで人物のデザインや背景全体を特徴的なものにしている気がします。
妙に不条理な作品で、最近の大越作品ではない作風です。
「パノラマ境奇譚」
幻想都市:メガロ。そこで暮らす漫画家のマリリンの話。SF要素が強い話で、プラモ感覚の人体改造が話の肝であり、その街で生きていくための知恵であるというのが中盤に明かされます。
マリリンの友人:ミコが、人体改造の事を知らされた後、2人がドライブするときのそれぞれの表情が既に分かり合えなくなった様子を表しているようで、マリリンの最後の姿が際立ってきます。
街の様子が何度も出てくるのだけど、ものすごい描き込み。人物の多さ、建物の多さ…そして、その中に放り込まれている小ネタの数々。
「悪夢の森の満開の下」
少女の自殺から始まる物語。「差別」がテーマとなっていて、白子の少女がヒロインとして登場し、彼女の義姉もまた不具の身という設定。登場人物は白子の少女と彼女に想いを寄せる少女が中心で重く感じ勝ちなテーマを猟奇と幻想の趣味で読ませてしまう。『天国に結ぶ恋』以前のフリークスものですが、この頃はまだ猟奇に足されるものが足りない気がしてしまいます。
「当摩世四郎の模型教室」(青林堂版のみ収録)
フィギュア作り方を大越キャラが解説してくれるお楽しみページ。
解説をしてくれる当摩世四郎が出てくる「星に願いを」は未完な上に単行本にもなっていないのが残念。
「メトロポリス」(改訂版のみ収録)
1ページのみの漫画。サイレント映画「メトロポリス」を題材にし、アンドロイドについて「所詮、機械」であるという理論を展開し、高性能の人型のロボットですら道具でしかないと語る科学者の話。
「モチーフ」(改訂版のみ収録)
月喰う蟲シリーズ。垂紅介が個展で出会った絵の作者:サイについて。
「変態っていうのは一度はまったら絶対に出られねぇ」
…肝に銘じます。もう抜け出せないのかもしれないけど。
「織垣家の娘」
男兄弟ばかりの織垣家の娘:ゆづと彼女に異常な愛情をそそぐ父親の話。
この親父、なんとかしないと!というほど、娘に愛情を注ぎまくったがゆえに恐ろしいまでの家庭崩壊を呼び起こします。文字の遊び方や家族の業が初期花輪和一っぽいテイストの作品。
「差出人をみたら匿名希望だこりゃ」
顔が醜い故にいじめにあい、親にすら愛されない男が、美少女を強姦し、彼女が生んだ男女の双子を交配して自分異常に醜い顔立ちの人間を作る話。江戸川乱歩の「人間椅子」っぽく手紙での告白と言う形で綴られていますが、なんだかあっさりした終わり方に。文章に起すと酷い話のはずなんですけどね…とはいえ、大越作品は猟奇を掲げながらも後味の悪い話が少ないのが特徴なので、この話もその1つと云えるかもしれません。
扉絵には古今東西の怪人やバケモノ(「メトロポリス」のマリア、エレファントマン、スケキヨなど)が所狭しと描かれています。そういえば、大越漫画には現在まで扉絵が存在する話が無いです。雑誌掲載時なんかは黒いページにタイトルだけやいきなり話が始まったりするのが多いです。
「月喰ウ蟲」
再び、月喰ウ蟲。
幻想都市の横浜を舞台に垂紅介の小説に酷似して行われる毒物による連続殺人。
それに挑むは大越漫画きってのダークヒーロー?!の垂紅介!
推理小説を意識した作風。月喰ウ蟲は大越作品の中のではファンタスティックな路線だとおもっていますが、今読むと、マイノリティーで猟奇者の犯罪ということで、後の「猟奇刑事マルサイ」の原形の原形という気がしなくもないです。
『月喰ウ蟲』収録の作品を読み返すと今後の作品の「種」や「芽」を見ているようです。
新しい作品はどんどん出てくると思うので、「花」はそのつどの最新作だと思うのですが、「月喰ウ蟲」収録作品は「猟奇」というテーマを発見したものの、いまひとつ成熟させるに至らず休筆する前の時代なので、大越漫画小史を作るなら区切れると思う時代です。第一期大越作品…といえる作品郡。猟奇以前の作品については、読んだ事が無いのでなんともいえませんが…。
初期大越作品で猟奇の種、芽の時期であるという私の勝手な見解から、この本はマニア向けかな…と思うのです。
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